第27回入賞作品
課題
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2020年、新型コロナウィルスが蔓延したことにより、これまで当たり前だと思っていた日常の風景が変わってしまった。限定的な地域で発生する災害や戦争と違い、グローバリズム化を反映し、世界中が同時に同じ課題を抱えたことも特筆される。今後、どのように収束していくかはまだわからないが、われわれが一度経験した異なる生活は、すでに導入されていたオンライン化を促進し、コロナ後の社会にも大きな影響を与えるだろう。
つまり、コロナ以前とまったく同じ状態には戻らない可能性が高い。例えば、毎朝オフィスに出勤しなくても、仕事は成立するのではないか。長く家で過ごすことによって、リアルな住環境をもっと心地よくしつつ、リモートで働ける環境も整えること。ほかにも人々の集まり方、公共空間、商業施設、交通機関のあり方などに変革をもたらすはずだ。
現在、危機の時代を迎えている。だが、違う見方をすれば、それは新しい幸せのかたちが生まれるきっかけになるのではないか。かつて14世紀にペストの流行がヨーロッパを襲った後、中世の社会が終焉し、ルネサンスの時代が始まったように。では、21世紀に来たるべき世界の都市と建築を想像したとき、具体的にガラスという素材はどのような価値を創出し、幸せな空間をつくることができるのか。社会に希望を与えるポジティブな可能性を提示して欲しい。
審査委員
- 審査委員長
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- 千葉 学
- (東京大学大学院 教授、千葉学建築計画事務所 主宰)
- 審査委員
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- 芝田 義治
- (久米設計 設計本部)
- 西澤 徹夫
- (西澤徹夫建築事務所 主宰)
- 岸本 暁
- (日本電気硝子 常務執行役員 コンシューマーガラス事業本部 本部長)
- コーディネーター
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- 五十嵐 太郎
- (建築批評家/東北大学大学院 教授)
(敬称略)
A.提案部門 (応募登録数 349件 応募作品数 237件)
最優秀賞
優秀賞
入 選
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作品名Raindrops
笹本 佳史
greap株式会社
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作品名窓霜に出会える東京の家
久保 亜津子・佐治 仁之
田中 稔郎・山崎 雅人株式会社グリッドフレーム
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作品名開かれたビオトープ
稲垣 竜也
フリー
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作品名呼吸する山手線
杉本 晴香・阪上 雄斗・島田 真希
中村 圭佑・宮崎 彩那・吉本 尚世株式会社JR東日本建築設計
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作品名それでも私は感じたい
上田 友美子
佐賀大学大学院
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作品名buble marriage
間﨑 紀稀
東京大学大学院
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作品名Build the “Realization” on the Border
Build the “Border” on the Realization福岡 優・北條 太一
京都工芸繊維大学大学院
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作品名あおのせかい
ヨコヤマ ミワ
アーティスト/アルチザン
(敬称略)
※作品の内容については月刊「新建築」2021年1月号において発表しました。
※所属先および役職は受賞当時のものです。
審査講評
審査委員長
千葉 学千葉学建築計画事務所 主宰,
東京大学大学院 教授
審査委員
芝田 義治株式会社久米設計 設計本部
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO主宰
バックキャスティング的アプローチによる作品が、より大きく僕たちの心を掴んだと思います。とくに、COVID19によって否応なしに生活や認識を変えなくてはならなくなった中での、ガラスへの「願い」の様なものを読み取れた作品に強く惹かれました。
例えば門田さんの作品からは、その下で集う大家族を想像し、莱さんの作品からは、今生の別れの時、遮断されながらも互いの体温を確かめ合う老夫婦を想いました。
なお、入選作以外にも、僕たちの心にふれた力作が少なからずありました。それらをご紹介できないことが些か残念です。
審査委員
西澤 徹夫西澤徹夫建築事務所 主宰
わたしたちは常にモノに残された痕跡や配置などから間接的に人の存在や時間を感じとっています。
そこから、ときに幸せを感じることがあるかも知れません。
直接的な人どうしの接触が制限されたなかで、ガラスがわたしたちの生きること、楽しむことを媒介してくれるとしたらそれはどんなかたちを持っているのか、とても示唆に富んだ提案が寄せられました。「空と光の野生」は、場所の固有性と新しい生活スタイルとの関係をうまく繋いでくれる建築だと思いました。
審査委員
岸本 暁日本電気硝子株式会社
常務執行役員コンシューマーガラス事業本部 本部長
今回のテーマ“幸せな空間をつくるガラス”で、コロナ禍で今までの日常を変えざるを得なくなった中、ガラスを通して安らぎやときめきを感じる作品に接することができました。
まだ感染が終息する気配がありませんが、この困難を克服した先に明るい未来が広がることを願っています。
弊社は、今後もガラスの可能性を引き出す新しい発見を期待するとともに、受賞者の皆様方がこの受賞を足掛かりにご活躍されることを祈念いたします。
コーディネーター
五十嵐 太郎建築批評家/東北大学大学院 教授
今回、コロナを契機としたテーマを設定したが、ややひねりを加えて「幸せな空間をつくるガラス」としたので、ポジティブな提案が集まった。
またコロナに関連したコンペはほかにも登場したが、ガラスという切り口ゆえに、ほとんどかぶりはなかったように思う。
二次審査において最後は2案に絞り込まれ、建築の可能性に対するイメージの喚起力が強い方が最優秀賞に選ばれた。なお、佳作は提案のいくつかの類型を代表するものを拾いながら、バリエーションが生まれるように選出されている。
「空と光の野生」は、意表を突く提案だった。ガラスによる光の屈折や集光を利用して火を起こし、日時計を作る。
この原始的な光のあり様を人の集う場にするものだ。人類がコロナという「自然」に翻弄される中で、自然を生活の原点として炙り出す。柔らかな絵だが、人類と自然との関わりに対する痛烈な批評でもある。
他の多くの提案も、人間の本能でもある「繋がること」に対する解像度の高さが印象深かった。たくさんの気づきを与えてくれる審査だった。