ブックタイトル環KAN建材ニュース77

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環KAN建材ニュース77

武蔵野美術大学美術館・図書館(東京都)2010年 初めての実作は実家の病院の増築で、その後も医療施設をいくつか。キャリア初期で医療施設に取り組めたことは、僕の建築思考に大きな影響を与えました。病院は、特定の個人のためにつくられてはいない。けれども、過ごす時間の長さを考えると、「家」的な側面もあります。特に精神医療施設の場合、集団のために効率よく使える機能性はもちろん、個人のためのよりパーソナルで親密な快適さが求められました。医療施設とは、家であると同時に街でもある。個の視点を集団に、集団の視点を個に還元しながら、個と集団とその間の様々な領域に想いを巡らせる。医療施設をつくることで、そんな貴重な見解を得ました。 内部と外部の関係性は、建築の最も普遍的なテーマのひとつです。大判ガラスの生産が可能になると、ミニマルかつ究極の境界面を実現する素材としてミースやコルビュジエを始めとする建築家がこぞって熱狂し、建築のタイポロジーをつくり変えていった。20世紀初頭のことです。1950年代にガラスの家などが出てきたことで、建材としてのガラスの使い方は行き着いた感があります。最近でも大判ガラスを使った建築は引き続き様々に試みられていますが、なかなか根源的な意味で近代建築を超えるイノベーションには至っていない。 内部と外部の関係性を考える時、そこに便利な素材としてガラスが介在することは多い。プラスチック系もあるとはいえ、光を採り入れられる外装材は、ガラスが基本。その中でも大判ガラスは、ミニマルな究極の境界面です。この方向は極められたのだから、違う切り口から究極を探すべきで、まだまだ工夫はできるはず。でも、ミースやコルビュジエの時代から100年近く経つのに、彼らの方法論を超えるようなガラスの建築は出ていません。僕もチャレンジしていて、たとえばHouse Nで内部と外部の間の空間をレイヤーでつくろうとした。ガラスは可能性や方向性が広がりすぎて、どこから手をつければいいのか迷う厄介な素材(笑)。それだけに、意欲がかきたてられます。使い方は僕ら建築家が考えるけれども、ガラスを素材として追求することは、日本電気硝子さんのようなメーカーにどんどん進めてもらい医療施設が包含する、個と集団のゆらぎ。重要かつ厄介な位置にある建築マテリアル、ガラス。たい。自分にとっての究極のガラス建築を、やはりつくってみたいですね。 身体と空間、内部と外部、個と共同といった対照的な関係について、言葉を尽くして考えを説明しようとしましたが、いちばんしっくりきたのが「森」というキーワードでした。僕が「森」と表現するのは、建築的、人工的に森を再構築するとどうなるのか、ということ。自然の森の中に人工的なものが介在するとどんなバランスが生まれるのか、とても興味があります。「森」は、微小なスケールから巨大なスケールまで巧みに連続していて、飽きることがない。多様かつ予測不可能でありながら、明解さもある。建築は、人間が生活するために単純化されているので、「森」に比べると大雑把で荒い。建築はどうしても「森」にはかなわないけれど、それをネガティブに捉えるのではなく、様々な方法で「森」という理想像にアクセスし続けたいと思っています。 2009年頃から海外に呼ばれることが多くなってきました。遠い国からわざわざ声を掛けてくださるのだから、僕に対してそれなりの期待感を持たれているはず。住宅であれ公共建築であれ、「これからの時代をリードする、最初のインパクトを与えたい」という強い想いが伝わってきます。建築が未来を押し進めていく。日本ではあまり感じられない一面です。むしろ、60年代の日本にはあった気概かもしれないけれど。建築家としては、頑張って牽引していきたいところです。 海外から街づくりのコンペにも招待されます。街を扱うことが、家と街の間をつなぐ作業の新たなインスピレーションになるかもしれない。街のスケールと個の親密性をどうつなげるかは試行錯誤の最中ですが、考えていくべき面白いテーマだと思っています。かつての時代のように、都市の巨大な全体像をデザインすることは難しくなっている。一方で、もう少し手が届く規模の街の計画にはリアリティを感じます。いろいろな建築家がクリエイティビティを発揮して街をつくる。街は断片のように集積していき、都市の未来像を描き出す。単独の頭脳で提示する都市計画より、楽しく豊かな未来になるのではないでしょうか。藤本 壮介(ふじもと そうすけ)1971年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。2000年藤本壮介建築設計事務所を設立。2015年パリ・サクレー・エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター国際設計競技一等受賞、2014年フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞受賞。2013年ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオンを設計。主な作品は、House NA(2011年)、武蔵野美術大学図書館(2010年)、House N(2008年)他。多様性を象徴する「森」のような建築。断片の積み重なりがつくる、街の未来像。Sou Fujimoto05 KAN77