ブックタイトル環KAN建材ニュース78

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概要

環KAN建材ニュース78

 外観は、立地から着想しました。角地なので、通りがかりの人が見上げてくれるようなものにしようと考えました。また、堺筋という交通量の多い幹線道路に面しているので、北向きの一方通行を車で北上してくると、遠くからでも敷地の角が視界に入ってくる。その時に、印象的に見える形にしたかったのです。角に対して、流れるような柔らかなラインを持った建物ができないか――それが楕円型です。正円型は静的で完結した印象ですが、楕円型は躍動感があり、直線部との境目がほとんど認識されなくなる点が魅力に思えました。一般的な楕円はアール2つでつくれますが、残念なカタチになる(笑)。イトーキ大阪ニューオフィスギャラリーは、より優美な曲面を持つ長楕円がふさわしいと考え、4つのアールを組み合わせることにしました。 私は以前から、ガラスブロックは平面をつくるよりも、「曲面になりたがっている」と思っていました。20cmピッチのガラスブロックは、曲面がきれいにつくりやすい素材です。とはいえ、4つのアールを使った楕円型を施工図にするのはかなり手間がかかり、合成円の組み合わせをコンピュータで割り出し、当時はペンプロッタを使ってCAD図面にしました。本当はもっと細かな割付にしたかったのですが、ガラスブロックのパネルの幅は決まっているので(たとえばパネル3.5枚目という割付は不可能)、目地幅で細かく調整して、できるだけ滑らかな曲面をつくろうとしました。ほんの数mmの誤差でも収まらなくなるので、施工現場は大変苦労されたと思います。角地で人々の目に留まる優美な楕円型。 実は、ガラスブロックを使うことは、上司の意向だったのです。まだ成形されていないグニャリとした乳白色のガラスの塊をドンと机の上に置いて「これを使いたいんだ」と。指示はこれだけです(笑)。最初に見た時に、「障子」だと思いました。私は吉田五十八や吉村順三の和の建築が好きで建築を志望したのですが、入社2年目で障子に見えるガラスに出会うなんて、運命だったのかもしれません。自然光が障子越しに入ると壁全体が柔らかい光源となり、展示物が美しく見える。そんな情景が浮かんで、他の素材を使わずに全面がガラスブロックの、壁とも窓ともつかない面をつくることに決めました。 できあがった室内に立って驚いたのは、朝、昼、夜、晴れの日、雨の日――乳白色のガラスブロック〈オパリーン〉が外界の変化をよく伝えてくれること。オフィスビルは暑さや寒さ、風や音といった自然とのつながりを一切遮断した人工の檻の中に閉じ込められた気持ちになりますが〈、オパリーン〉のきれいな透過光の中に居ると、都会で忘れ去られた自然の移ろいが感じられます。それでいて、強い西日が遮れるし、遮音性もいい。幹線道路に面しているのに、外の音が気にならないはずです。 ステンレスのキラキラした目地との組み合わせもよかったですね。着工時はモルタル目地で、後から乾式工法に変更した。予算と工法が変わるので、施工業者さんとは大バトルでしたが(苦笑)。そこまでして乾式工法にしたかったのは、モルタル目地はガラスブロックを拘束してしまい、負荷がかかって割れることがあるからです。乾式工法だとパネル全体がしなって、ガラスブロックに力が伝わることがない。だから、阪神・淡路大震災でも割れたガラスブロックは1枚もなかった。それに、湿式工法は施工中の様子もかわいそうで…。鉄筋の中にモルタルを流し込む過程で、きれいなガラスブロックがモルタルだらけに汚される。モルタルはレンガのように積む施工向きで、ガラスブロックとはあまり相性が良くないと、私は思っています。 この界隈は商都大阪の濃密な歴史に満ちている場所で、綿業会館や船場ビルディングといった名建築が多く残っています。そういう場所に建てるのですから、真剣勝負で挑みました。名作ビルの邪魔にならないように、しかし、単に目立たないだけでは駄目で、お互いに個性を引き立て合う存在でないといけません。ガラスブロックとステンレス目地を使ったイトーキ大阪ニューオフィスギャラリーは工芸品だと思っています。複雑で繊細な工芸品を、建築の規模でつくった――経験の浅い人間の常で、いかにも怖いもの知らずでしたね(笑)。 イトーキ大阪ニューオフィスギャラリーは、入社2年目で設計させてもらえた処女作でした。普通の設計事務所なら考えられないかもしれませんね。でも、私は日建設計が巨大なピラミッド組織だと感じたことは、一度もありません。「何かをつくりたい」という子どものように熱い想いを持った人間の集団ですね。今にして思えば、あたたかく育ててもらった。年上の人たちが、いつもそぉっと見守ってくれた。そんな風に、この建物には、関わったすべての人の熱意が込められている気がします。ガラスブロックは、曲面になりたがっていた――。日建設計・大谷弘明氏 インタビュー(2016年6月)大谷弘明 Hiroaki Otani(株)日建設計 執行役員/設計部門副統括 兼 代表  1962年大阪生まれ。東京藝術大学美術学部建築科卒。1986年に日建設計入社。積層の家(2003年)で日本建築学会賞受賞。キーエンス本社・研究所(1994年)、愛媛県美術館(1998年)、宮内庁正倉院事務所(2008年)、ベトナム歴史博物館(2010年)、ザ・リッツカールトン京都(2014年)など多数。街の歴史的名建築と並び立つ矜持。ガラスブロックとステンレス目地の美。17 KAN78