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2025.04.01

デンキガラス建築探訪

ガラスブロック採用例:TAMADIC名古屋

木の温もりあふれる
木質構造ビルの進化系
CLT×コンクリートのハイブリッド構造

タマディック社は、自動車、航空・宇宙、 FA・ロボティクス分野の機械設計、生産技術などを手掛ける総合エンジニアリング企業です。多くのエンジニアが働くこともあり、東海エリアの拠点となる「TAMADIC 名古屋」の新築プロジェクトには "執務エリアの環境性向上や社員間コミュニケーションの活性化、フィンランドサウナ導入による健康促進" がテーマとして掲げられていました。坂茂建築設計は、世界初の木造7階建てとなるスイスの「タメディア本社」や、世界最大級の木造建築物である「スウォッチ・オメガ本社」などいくつもの木造建築物を手掛けていたこともあり、上記のテーマを満たしつつ「木造でチャレンジングな建物を設計してほしい」というご要望をいただきました。しかし、建設予定地が防火地域であることから耐火建築物にしないといけない。規制の中でどんなものができるのか...。そこで考え出したのが、CLT(クロス・ラミネーティッド・ティンバー)とコンクリートの組み合わせでした。CLTをロの字型の型枠として組み、コンクリートを流し込んで柱にするハイブリッド構造です。

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CLTとコンクリートのハイブリッド構造で、中から見ても外から見ても木質構造であることが感じられる。
日が沈むと、外から天井や床の木の質感がさらによく見える。


CLTをそのまま使うと日本の法律では耐火基準に満たないため、CLTの外側を石膏ボードなど耐火性のある素材で覆うのが一般的ですが、私たちとしてはどうしても "木" そのものを表したいという強い思いがありました。そこで、地震や風などの短期荷重のみに抵抗する構造材には耐火性が求められないことに着目し、短期荷重をCLT+コンクリートで、耐火性が求められる長期荷重にはコンクリートのみと、構造上の棲み分けを行うことで "木" を表すことを実現しました。天井部もCLTを床スラブの型枠としてコンクリートを流し込んでおり、スラブのたわみを補強しています。

CLTは一般的に型枠として使われるコンパネよりも強度があるため、仮設材を最小限に減らすことが可能です。さらに型枠を取り外して廃棄やリサイクルする手間も省けることを考えると、まさに一石三鳥。廃棄をなくすという意味ではSDGsにも貢献できていると思います。


余計なものは見せずに、
木の質感を極限まで強調

先にもお話ししましたが、今回の設計のご依頼は「"木造"でチャレンジングな建物」ということでした。そこで柱など木のフレーム、つまり木質構造を強調すべく、内装面に関しても余計なものは極限まで見せないように設計しています。例えば、天井の照明は外に出ないように CLTの継ぎ目に埋め込んでいます。

また通常、梁は天井側に出しますが、下記の図面を見てもわかるように、スラブ上の床側に梁を出す"逆梁"とフラットスラブを採用。その逆梁をできる限り扁平とすることにより、天井から上の床仕上面まで600mmという薄さで、CLTのフラットな型枠天井を実現しています。さらに付け加えると、そのわずかな床下空間を利用して空調空気を送り込んでいます。夏は冷たく、冬は暖かい空気が床下を循環し、細かく開けられたカーペットの穴を通じてオフィスに流れ込む。"木"以外のものを徹底的に排除していることから、中にいても外から見ても、まさに"木質構造のビル"を成立させています。

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天井全面に型枠兼撓み補強としてCLTを、椅子や机などの家具には紙管を使用。
日当たりによる館内温度の上昇を防ぐため、色が変わる自動調整ガラスを採用している。


木質構造ビルを具現化させた、

ガラスブロック

「TAMADIC 名古屋」は "木質構造ビル"を強調することに加え、採光面からもガラス張りを基本としています。ところが北面だけが建物に隣接しており、延焼の恐れがある部分があることや、北西部に非常用の螺旋階段を設置していることから耐火性能が必要となり、通常のガラスが採用できませんでした。一般的には不透明な耐火外壁を設置することになりますが、東面、南面、西面とガラスが連続する建物がいきなり北西部分だけ閉鎖的になることにとても抵抗がありました。CLTと木質のハイブリッドな建物をより強調するためには、やはり透明性を諦めきれなかった。


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トイレや水回りがある北面にガラスブロックを採用。
デザイン性が高く目隠しができて採光性があること、
北西部外側の螺旋階段(屋外避難階段)の耐火対策になることが決め手となった。



そこで検討を重ねた結果、ガラスブロックの話が持ち上がりました。ガラスブロックなら外部から光を採り入れながら視線を遮ることができるという、その大きな特長を活かすことができる。そしてなんといっても、北西部*の屋外避難階段である螺旋階段周りの外壁として求められる耐火性能もクリアできる。私たちが目指していた "木質構造ビル" を最終的に具現化するには最適の素材でした。まさに「TAMADIC 名古屋」のプロジェクトを遂行させる最後のパーツがガラスブロックだったと言っても過言ではありません。( * 建物北面は防火設備、北西部は一時間耐火外壁です)

取材協力/坂茂建築設計 佐々木真海様


TAMADIC 名古屋(愛知県)

建築設計:坂茂建築設計
構造設計:陶器浩一+飯島建築事務所+高橋俊也建築構造研究所
施  工:大林組
写  真:平井広行(但し夜景見上げ除く)
使用製品:ガラスブロック たまゆら145角

※本記事は「環84号」の記事を再掲したものです。
※本誌はこちらからご覧いただけます。

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