
2025.06.10
ガラスのネタ帳
関西万博とデンキガラス ー藤本壮介氏「大屋根リング」
大阪・関西万博2025が始まって、早いものでもうすぐ2カ月。
既に多くのメディアでその情報は溢れていますが、私たち電気硝子建材も独自の切り口で万博を取りあげてみることにします。
その名も「関西万博とデンキガラス」!
今回の万博には大御所から若手まで多数の建築家やデザイナーが関わっておられますが、その中に、日本電気硝子が主催、電気硝子建材が共催した「空間デザイン・コンペティション」に若かりし頃に入賞された方や、審査委員を務めてくださった方などが多々いらっしゃいます。
時を経て、その方々がこの万博でどんな作品を手掛けられたのか‥などなどレポートしていきます。
第1回目は、建築家・藤本壮介氏からご紹介いたします。第4回空間デザインコンペ(1997年)提案部門で佳作を受賞されており、第21回では審査委員、第30回では審査委員長を務めていただきました。関西万博では会場デザインプロデューサーであり、「大屋根リング」の設計監修、「迎賓館」のデザイン監修、「静けさの森」の企画監修をされています。
※詳細プロフィールや弊社との関わりはこちらの過去記事をぜひご覧ください。
語り尽くされた感もありますが、ここでは「大屋根リング(以下リング)」について触れます(ちなみに「リング」はまさに「環」に通じます!)。
入場ゲートから入って正面から見ると "円"であることが認識できないほどの大きさです。そして、近づいて見るとリングは "閉ざす"のではなく、来場者を "迎える" 象徴であることに気がつきます。
東ゲートより入場してから目に入ってくる景色。「万博に来た!」という期待感を高める門のようにも見えます。
このリング、日差しや雨から来場者を守る「大屋根」という言葉がついていますが、ひとたび上がれば展望スペースや遊歩道、寝っ転がれる芝生のある公園でもあり、さらには柱や梁にサインや番号が示されている巨大な会場サインでもあり、人々を導く主要動線でもあり、人々を迎え入れ、見送るゲートでもあり、高揚感を掻き立てる壮大なシンボルでもあります。一人で何役もこなすマルチプレイヤーのような建築です(なお、1970年に開催された大阪万博の「お祭り広場」に架かっていた大きな屋根「大屋根」に沿った名称かと思います)。
1周の長さは約2km、高さは 約12m(外側は約20m)。数字だけではピンと来ないと思いますので、もし気持ちの良いお天気の日に会場を訪れたなら、まずは迷わずリングに上がって歩いてみてください。その爽快なまでの規模に圧倒されることと思います。
※ちなみに「1周約30分」とされていますが、サッサッサッと歩いた場合だと思います。景色を楽しむとなると、もっともっと時間がかかるのでご注意ください。
エスカレーターではなく階段で上がるとリングの天井の真下まで近づけます。日本の伝統的な貫(ぬき)接合と現代技術が組み合わさった建築技法を間近で見られるのでオススメです。
リングの上から内側を見渡せば各国の個性的なパビリオンが平和に居並び、外側に目を向ければ穏やかな海、明石海峡から六甲の山々までを臨み、見上げれば一つの大空がそこにあります。難しいことは抜きにして「多様でありながら、ひとつ」という万博会場のコンセプトを肌で感じられます。
日没時刻が近づくと夕陽を求めて多くの人が集まる「リング西側」は、ついつい足が向く人気スポットと化します。関西の人なら「大阪湾ってこんなにきれいだったのか‥」と感慨深い気持ちになることと思います(先日気がついたのですが「リング東側」から見る方が、万博ならではの夕陽を拝めるかもしれません)。
しかしここで敢えて、筆者は「大屋根リング」の神髄は夜にある!と言いたいです。
暗くなればなるほど温もりある木の色あいを浮き立たせる照明が、その存在をグッと際立たせて見せるのです。写真を撮らずにはいられない、感性にグイグイ訴える建築であることをさらに実感できます(所感となり恐縮ですが、夜のリングを見上げたとき「まるで木造のコロッセオだ!」と思いました)。
人によって感想はさまざまだと思いますが、リングに直接触れたとき、その実現に必要とされた「技術力」やデザインの可能性を「信じる力」などに想いを馳せ、感動しました。
たくさんの見知らぬ人々と一緒に、見上げたり見下ろしたり眺めたり、かすかな木の香りにハッとしたり、ただ歩くだけでも楽しくなってしまう「大屋根リング」。あの重苦しかったコロナ禍を経た今だからこそ、ネット情報や映像・画像からでは決して得られない「リアル」の力強さが、「楽しい」「嬉しい」という感情をより強く呼び覚ますのかもしれません。
関西は梅雨入りしてしまいましたが、
本格的に暑い夏がやって来る前にリングを体感しにぜひ会場までお越しください!
大屋根リング
基本設計・実施設計・工事監理: 2025年日本国際博覧会 会場デザインプロデューサー 藤本壮介
基本設計: 東畑・梓設計共同企業体
実施設計・施工・監理:
(北東工区)大林組・大鉄工業・TSUCHIYA共同企業体、安井建築設計事務所
(南東工区)清水・東急・村本・青木あすなろ共同企業体
(西工区)竹中工務店・南海辰村建設・竹中土木共同企業体、昭和設計
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