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インタビュー

限られた面積で最大限の付加価値
窓を全開放しリビングとテラスを一体化

アイビス千駄ケ谷は、1~2階がテナント、3~4階が住宅の事務所併用住宅。普通のオフィスでは難しい階高約4.5mと高さがある開放的な空間や、窓を全開放してリビングとテラスを一体化することで、限られた延べ床面積でも最大限に付加価値を高めた。テナント空間と居住空間という用途や必要な機能が大きく異なる空間を組み合わせても、建築のアイデンティティーとして一つの存在感を出せるよう意匠性にこだわった。設計を手掛けたKOMPAS JAPAN一級建築士事務所の小室舞氏に話を聞いた。

外窓に使うことで可能性の広がりを感じさせるファイアライト®

KOMPAS JAPAN一級建築士事務所
小室 舞 氏
設計を手掛けた小室氏は、
Herzog&deMeuron(バーゼル&香港)で約9年間勤務した後、2018年に独立して香港と東京に建築デザインスタジオ「KOMPAS JAPAN一級建築士事務所」を設立した。独立後にリノベーションなどは手掛けたが、新築として竣工するのはアイビス千駄ケ谷が最初の物件になる。
施主から、「都心部の土地で前面の道路が狭く、容積率が160%しか取れない中で、下層階はテナントに貸して賃料を得て、上層階に自分たちが住むというビルをどのように建てたらいいか」という相談を受けた。対応方法を調べると、日影規制などの法規さえクリアすれば20メートルの高さまで建てられることが分かり、高さがある開放的な空間にし、住宅部分をメゾネットにして、延べ床面積に含まれないテラスなどの外部空間を生活空間に取り入れることで、庭もテラスも確保できると提案した。
裏通りの小さな建物に、よくあるオフィススペースを設けても他の物件と差別化できない。そこで、普通のオフィスでは難しい階高約4.5メートルを確保し、ガラス張りのファサードから自然光が差し込むようにした。1階と2階のボリュームのずれから生じる中庭、テラスをオフィスの床面積以上に使える場所とし、同じ床面積を持つ建物ではまねできない付加価値を持たせ、空間性にこだわるテナントへの訴求力を高めた。「階高を高く取ることで、1階、2階のテナントで既に周辺の建物と同じくらいの高さになり、3階、4階の住宅からは建物の屋根しか見えない。街中にあって、建物の上には広々とした空間が広がっている。それを今回、住宅部分で最大限に活用した」(小室氏)。
都心の住宅は隣地が近いため窓を大きく取れず、一日中カーテンを閉めた状態で閉鎖的になりがちだった。今回はテナントと住宅の複合建築だったのが功を奏して、テナントは路面に接した使いやすさ、住宅はプライバシーと魅力的な空間を求めていて、それぞれの要望と環境がうまく合致した。
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床形状をずらして外部空間を生み出す

ユニークなのが、1~4階それぞれの床の形状が全て異なること。「専用ソフトを使わないと解析できないくらい複雑な日影規制に従いながら、最大限のボリュームを追求した結果、平行四辺形ベースで斜めにするのが一番納まりがいいことが見えてきた。ボリュームをずらすことで下の階のひさしになったり、上の階でテラスや庭園を作れたり、普通に建てたのではできない外部空間を生み出す。延べ床面積や屋内面積より広いくらいの外部空間(テラスや屋上)を設けることで、限られた中でも最大限の付加価値を高めた」(小室氏)。何種もの斜めのボリュームの組み合わせがダイナミックな空間を実現する。
各階はニーズに合わせて形が違う(図)。1階に施主の駐車場(1階の右上)が必要だが、テナントが使う空間とは分ける必要がある。施主が駐車場で車から降りてすぐにエレベーターに乗れるような設計にしたところ、くの字の形状になった。くの字に真ん中をへこませることで、ただの建物の隙間ではなく、テナントが占有的に使えて植栽もできる庭のようなスペースを取れる。2階はシンプルで使いやすいよう平行四辺形にした。そうすることでテラス(2階の左上)として使えるようになり、休憩するスペースを取れる。
3~4階の住宅はメゾネットで各階のボリュームはあまり大きく取れない。3階は、2階の平行四辺形を斜めに分割したような形にすることで、床面積に含まれないテラス部分に三角形の大きな庭スペースを取れる。
日影規制は北側ほどボリュームが取れる条件になっているので、4階は3階のボリュームがはみ出るくらいに北側にリビングスペースを設けることで広い面積を取ることができ、一部が3階のテラスの屋根にもなる。
図 各階の床形状 クリックで拡大

床面積以上に広いと感じるような生活空間

住宅部分(3階、4階)はメゾネットになっていて、3階に子供部屋、主寝室など個室が5部屋、4階にリビングダイニングがある。3階の各個室をつなぐスペースをただの廊下にしてはもったいないので、廊下をあえて広く取って本棚を設置し、遊び場兼書斎のようなスペースにした。床面積として使える部分が限られるため、「狭い空間の先に開放的な窓がある作りにすることで、床面積以上に広く感じてもらえるのではないか」と考え、3階、4階の窓を全開放して室内とテラスを一体にすることで、テラスをリビングの延長として広い生活空間を使えるよう工夫した。
4階のリビングダイニングの階高を高くして斜めにすることで、北側から自然光が入るようにした。屋上は、3階、4階のテラスとはまた違う三つ目の外部空間として、4階の斜めの屋根に人工芝を敷いて子供の遊び場にした。室外機など、通常屋上に置かれているものを裏側に隠し、屋上を全て有効活用した。各階には天井の高さを生かして小屋裏・床下収納を設置するなど、合理的に空間ボリュームを最大限活用しながら、空間的にも意匠的にもダイナミックさがありながら、長く飽きないデザインに設計した。
欧州では木製サッシが一般的で、コンクリート造に木製サッシを使うことは割と多く抵抗はなかった。小室氏は以前から、「アルミサッシのような既製品が並ぶ建物は、いかにも日本的な景観」と思っていた。前にいた事務所の窓は、「ヘーベシーベ」と呼ばれる大型引き戸で全開放できる窓だったこともあり、「せっかくだったら、引き違いのように半分しか開かない窓ではなく、全開放の引き込み窓にして、リビングとテラスを一体化したい」という思いがあった。
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耐熱結晶化ガラス仕様の木製サッシ

ここで大きな課題となったのは、開口部の防火対応。今回の立地では、開口部に防火設備が必要になる。ちょうど工務店を決めるタイミングで、ビル用防火設備が通則認定から個別認定に切り替わった。個別認定を取得したサッシで、1階・2階をできるだけガラス張りにするため、最大サイズ、金額などを調べた結果、スチールサッシでも高さ3メートルの窓は難しいことが分かった。
ただ、大開口に対応し、個別認定を取得している木製サッシを見つけ、金額的な問題もクリアできそうだったので、木製サッシが候補になった。「日本的な網入りガラスなのがどうしても好きになれなかった」ことから、網なしガラスを使っていて、その時点で一番大きなサイズの窓の個別認定を取得していたことから、アルスの木製サッシ「夢まど」(「ファイアライト」仕様)を採用することにした。
小室氏が「ファイアライト」に出合った当時は、特定防火設備のパーティションとして使われている情報がほとんどだったので、「屋内専用の特定防火設備用ガラスかと思っていた」。木製サッシを調べて「夢まど」にたどり着いた時に、外窓でも使えることを初めて知ったそうで、「外窓でも『ファイアライト』が使える商品があることを、もっと周知した方がいい」と思ったという。「ファイアライト」の厚みは3ミリ、4ミリ、5ミリ、8ミリで、「今回のように高さ3メートルで使用する場合、耐風圧の関係から4ミリ、5ミリだと心配だが、8ミリにすると値段が上がるので、コストバランスが良い6ミリがあればありがたい」と要望する。
「夢まど」はテナント部分の1階、2階での使用を考えていたが、3階、4階の住宅部分の一部で防火設備を使う必要があったため、自然な流れで住宅部分でも採用した。当時、個別認定を取得した引き戸がなかったので、3階の引き戸はぎりぎり延焼の範囲から外れる位置で、かつできる限り最大サイズになるよう設計。
小室舞(こむろ まい)
一級建築士。京都大学工学部建築学科卒業。スイス連邦工科大学チューリヒ校留学を経て、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。ヘルツォーク&ド・ムーロン(バーゼル&香港)で約9年間勤務した後、2018年に香港と東京に建築デザインスタジオ「KOMPAS JAPAN一級建築士事務所」を設立。
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