
2025.07.04
ガラスのネタ帳
関西万博とデンキガラス ー平田晃久氏「EXPOナショナルデーホール」
既に多くのメディアで大阪・関西万博の情報は溢れていますが、私たち電気硝子建材も独自の切り口で万博を取りあげてみるこの企画。その名も「関西万博とデンキガラス」!
今回の万博には大御所から若手まで多数の建築家やデザイナーが関わっておられますが、その中に、日本電気硝子が主催、電気硝子建材が共催した「空間デザイン・コンペティション」に若かりし頃に入賞された方や、審査委員を務めてくださった方などが多々おられるのです。
時を経て、その方々がこの万博でどんな作品を手掛けられたのか‥などなどレポートしていきます。
第2回目は、建築家・平田晃久氏をご紹介いたします。
第3回空間デザインコンペ(1996年)提案部門で金賞を受賞されており、第20回では審査委員を務めていただきました。
関西万博ではEXPOナショナルデーホール(小催事場、愛称:レイガーデン)の設計を担当されています。
※第1回目の記事「関西万博とデンキガラス ー藤本壮介氏」はこちら。
東ゲートから入場して「大屋根リング」までまっすぐたどり着いたら、リングに沿って左手へと10分ほど行くと目に入ってくるスケルトン状の建物が「レイガーデン」です。長いつづら折りのスロープが印象的な顔と、海へとせり出すように伸びる複数のスラブ(床板)がインパクトを与える顔、2つのファサードを持つこの建築は、関西万博の参加国や地域などが日替わりでそれぞれの文化や歴史を祝い、紹介する "ナショナルデー" や "スペシャルデー" を催すイベント舞台として大切な役割を果たしています。
見る位置によってまったく異なった表情を持つ「EXPOナショナルデーホール」(愛称:レイガーデン)。
1本のスラブは幅が約5m、長さは最大100mある。
スラブをつなぐスロープに沿ってのんびり歩いていくと建物の最上階まで上ることができ、しかも鋭角な先端まで行けるので好きな方はちょっと興奮すると思います(笑)。
スラブの下には、約500席を有する半屋外の「メインホール」、能舞台を模した「ポップアップステージ(南)」、アートなどが展示できる「ギャラリーEast」があり、2階には海を臨むレストランがあります。これらの施設はスロープを移動しながら外から眺めることができます。
ゆるやかなつづら折りの空中デッキで上れる最上階の最大高さは約18m。建物の先端にまで行ける。
面白いのが柱と梁の構成です。海風のみならず大阪湾特有の海からの季節風を考慮し、構造フレーム自体をわずかに振りながら配置されているとのこと。このようにすることで構造体を風が直撃するのを避けつつ、風の流れをコントロールしているのです。また、レイガーデンは半年間の仮設建築であることから解体・再利用が容易な単純な鉄骨構造とし、スラブには規格材の木材が使用されています。
そのほか、レイガーデンには絶好の撮影スポットとしての側面があります。というのも大屋根リングの真横に位置し、ほとんど同じ高さまで上がることができるためです。かなりの迫力です。筆者が訪れたのはカンカン照りの日中でしたが、夕暮れや夜などには、もっと美しい写真が撮れることと思います。
建築から逸れたお話になりますが、2階のレストラン「ラウンジ&ダイニング」は、高さ9mと開放感あるガラス張りの店内から大阪湾が一望でき、賑やかな会場内においてかなりの "静空間"と評判です。特に "海と大屋根リングビュー" という万博期間限定の風景が臨める席もあるそう。少しの間だけ熱気から離れ、落ち着いた時間を過ごしたい方にはぴったりではないでしょうか。
多彩な施設を擁するEXPOナショナルデーホール「レイガーデン」は、訪れる人によって思い思いに過ごすことができる懐の深い建築です。仮設建築ならではの条件下で "意匠" と "環境配慮" が高い次元でバランスしている在り方も、これからの建築における大切なヒントになっているのではと感じます。
既に暑い夏が到来してしまいましたが熱中症には気をつけつつ、ぜひ会場までお越しください!
EXPOナショナルデーホール レイガーデン
基本設計:安井建築設計事務所+平田晃久建築設計事務所JV
実施設計・施工・監理:鴻池・安井・平田晃久グループ
平田晃久(ひらた・あきひさ)
1971年 大阪府生まれ。1994年 京都大学工学部建築学科卒業。1997年 同大学大学院修士課程修了。1997~2005年 伊東豊雄建築設計事務所。2005年 平田晃久建築設計事務所設立。2015年~ 京都大学准教授。現在、同大学教授。2025年 イエール大学客員教授。
主な作品 : 「桝屋本店」(2006)、「sarugaku」(2008)、「Bloomberg Pavilion」(2011)、「太田市美術館・図書館」「Tree-ness House」(2017)、「八代市民俗伝統芸能伝承館」(2021)、「ハラカド」「小千谷市ひと・まち・文化共創拠点ホントカ。」(2024)
主な受賞:第19回JIA新人賞 (2008)、第13回ベネチアビエンナーレ国際建築展金獅子賞 (2012 共働受賞)、村野藤吾賞 (2018)、BCS賞(2018)、日本建築学会賞 (2022) など多数受賞。
主な著書:Discovering New (TOTO出版)、JA108 Akihisa HIRATA 平田晃久2017→ 2003 (新建築社)、人間の波打ちぎわ (青幻舎) など。